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zoom RSS 時空を越えた旅の帰結「仁」−そして「果てしなき流れの果てに」(小松左京)

<<   作成日時 : 2013/02/17 17:05   >>

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日本のある片田舎の派出所に
一人の高齢の男性が
息せききって、駆け込んでくる。
巡査が何事かと尋ねると

画像
















[仁]−TBS公式サイト

一緒に暮していた
(やはり既に相当に高齢であるが)
女性がさきほど、息を引き取ったという。

その女性について巡査はよく知っていた。
若い頃からこの地の学校で教えていた教師で
巡査自身も、彼女の教え子だった

彼女は教壇を去るまで結婚することはなく
教え子を自分の子の様にかわいがり
村では知らない人はいなかったのだ。

それでは、この男性は
彼女とどういう関係にあるのか?

聞かれて老人は奇妙なことを言う
「私は、彼女とはまったく面識はありませんでした。
あるとき、見知らぬこの地で
彼女の家の近くを探索していたとき
彼女が私を一目見るなり、
別の男性の名を呼んで私にひがみついてきました。

彼女は、私を長い間、
待っていた人と間違えたようなのです。

私が帰ろうとすると
彼女は、しばらくここにいて欲しい
というので、私も実は、身元が定かでなく
互いにいい年寄りなので
一緒に暮らすようになったのです。

彼女の話では、若い頃に愛していたその男性は
ある日、忽然と姿を消してしまった。
彼女は、その日以来、
ずっとその人を待っていたというのです。

私が彼女と暮したのは短い間でしたが、
彼女は幸せそうでした。
心の温かいいい人でした。

それが、先ほど倒れ、
私の手をしっかりと握りしめながら
静かに息を引取ったのです。」

そういいながら、滂沱としている
老人の話に、巡査はとにかくも
亡くなった女性の家を訪ねることにする。

老人は、無理に走ってきたために
体が動かないので、
派出所でそのまま、待たせておく

巡査が女性の家の調べを終えて派出所に戻ると
駆け込んできたその男性も
椅子に座ったまま、絶命している。
・・・・・・・・・・」

これは、先ほど、他界した日本SFの巨匠である
小松左京氏の初期に書かれた
長編「果てしなき流れの果てに」の
冒頭にある導入部分である。

物語は、タイムトラベル物の一種であり
主人公である大学の研究員が、
師事している教授から
時代空間を無視したような遺物の
存在を知らされる

白亜紀の地層から発見された砂時計
古墳から出てきた金属製のねじ


このような存在を知った直後
主人公は、時空を越えて存在する
タイム・パトロールの一員に拉致され
何十億年という未来から過去を行き来しながら、
反抗する組織と闘うという
壮大な作品であるが、

積極的に過去の世界に干渉し
現代の文明を教授し、
そのたびに未来を変えてゆくという
いわば多次元時空間的発想が披瀝される

このような発想は、字空間を同一次元とした場合
ある種のパラドックスが生じて
ストーリーが複雑化して扱いにくいためか、
傑作と言われるものは以外に少ない

年の初め、TVで集中的に再放送されていた
「仁」というドラマは、そういった
扱いにくい多次元空間をもとに
描かれた作品であり、

一見して「果てしなき・・・」の
直系の作品のような思いにかられる


これは、数年前に放送されたものの再放送で
現代の脳外科医が、江戸幕末の時代に
タイムスリップして、多くの人々の
医療に当るというもので

初出当時、大変な評判を得たとのことだが
スリップ先の江戸時代において
入手可能な技術を駆使して
現代の医療手法を実践して行く
そのプロセスの斬新さ、面白さは比類がない。

物語は、都内の総合病院に勤務する
脳外科医である南方仁が、
自身の婚約者の脳にできた腫瘍を
取り除く手術に失敗して
彼女を半身不随にしてしまう所から始まる

失意の折、緊急搬送された身元不明患者の
脳腫瘍の手術を担当する

手術直後の深夜、その患者が院内の
緊急医療セットを持ち出して
非常階段を駆け上がって行くのを見て
これを追いかけて行くときに
足をすべらしてビルから落下してゆく

そして気がついて見るとそこは
幕末の江戸時代だった

彼は最初のうち、
自分の身に付けた医術によって人を救えば、
それによって歴史が変わってしまうのではないか
という不安を抱くが、
目の前で苦しむ人々を無視できず

コレラに苦しむ人々、梅毒に悩む女郎
脳障害で意識不明の重病人
などを救いながら

当時の蘭学の中枢である医学院の人々の協力を得て、
ついに自力でペニシリンの製造に成功する

そしてたまたま知り合うことになった
坂本竜馬や勝海舟と友人になり
彼らを始めとする歴史上の人物達に
影響を与えるようになる

それ以外にも彼は
周囲に多くの友人を得る

彼がこの時代にきた直後に
命を救った武家の橘恭太郎、

その次女であり、後に
主人公の医術に感銘をうけ、
彼に恋心を抱き続ける
橘咲(たちばなさき)とその母

彼の医術に全面的に協力して
惜しまない尾形とその弟子達

最初は反発していたが
やがてその人間の正直さに打たれて
友好関係になる漢方の学派の人々など

彼を取り巻く人々が実に
生き生きと描かれている

しかし彼にとってもっとも
大きな存在となるのが、
スリップ前の現代で
手術に失敗した婚約者に
瓜二つの女郎の野風(のかぜ)であろう


彼はその時代に来る前に
その婚約者と一緒に撮った
一枚の写真を携えてきたのだが

彼は野風が乳がんであることを知り
その手術に成功すると
写真の中の婚約者の姿が消えてしまう

明らかにその女郎は婚約者の先祖であり
自分がその先祖の運命を変えたために
その子孫となるはずだった婚約者が
存在しなくなってしまったのだ

そしてついに彼が現代の時代に
戻るときがやってくる。

彼を慕う咲が、大政奉還を不服とする
武士達と官軍の争いの中で
銃弾を受けて負傷し、
これを治すにはどうしても
現代に戻って薬品を調達する以外に
手はないという状況が起きてしまったのだ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

多次元時空間という発想はともかく
現代人が過去や未来に迷いこんで
そこで様々な人間と出会うというは
これまで多くの映像作品を生み出している

時間旅行という概念の生みの親である
H.G.ウエルズの「タイムマシン」はもとより
「バック・トウ・ザ・フューチャー」や「戦国自衛隊」
などが、すぐに思い出される

そういった一連の映像作品の中で
おそらくこの「仁」という作品は
その頂点に立つものといえる

なぜならば、この「仁」という作品は
扱いにくいタイムスリップ物として
ほぼ完璧な結末が
用意されているからである。

ここで展開される終結部は、
この長大なエピソードの中で
浮かび上がった様々な問題のことごとくを
昇華し、見るものに深い
感銘を与えずにはおかない。

そういう意味においてSFの金字塔とされる
キューブリックの「2001年宇宙の旅」に
一歩もひけを取らないといえる。


くわえて、現代人が過去に生きるというSF的興味を越えて
その時代に生きる人々の苦悩
坂本竜馬や西郷隆盛といった
歴史上の人物はいうまでもなく

無名の多くの人々の苦悩と
そしてその時代を、どこまでも現代の感覚で
生きて行くことで生まれる
主人公の孤立感を描ききることによって

現代社会の人間の存在の持つ
疎外感と孤立感を見事に浮かび上がらせる
ことに成功しているからに他ならない

主人公が常に抱き続ける
自分が培ってきた価値観と相容れない世界で
感じる生きることへの不安と孤絶感は、
現在の閉塞した社会で生きる
多くの人々が抱えている想いを
代弁したものであると考える

作品は、主人公がそういう異空間で
しだいにその環境に適合して行く姿を通して
現代に生きる我々の未来の志向を
暗示してもいる


さらにこの作品の持つSF的な要素である
多次元空間の取り扱いであるが、

それがパラドックスとして破綻することなく
人々の心に深い感動をもたらす結果となっているのは
それが古来から日本人の持つ
時代への感覚に接近していることに起因する

それは、あの平家物語の冒頭の言葉にあるように

祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり


といった一瞬も立ち止まろうとしない
時間の変転する流れの中にあって
人の一生の儚さに対する
哀切極まりない寂寥感が、
このドラマ全体を覆い尽くしているからである

作品中、最も感動的なものの一つは
主人公が未来に去ってしまった後
残された咲が、未来に生きるであろう主人公に向けて
手紙を書き残す場面であると思われるのだが

この感動は、冒頭に掲げた小松左京の「果てしなき・・・」が
数十億年を跨るその本編において
時間に対して、かなり思弁的な考察が続き、
しばしば難解な印象を与えながら
最終的に心に残るのが

異空間に拉致されて永遠に帰ることのない
恋人を死ぬまで待ち続ける
老女の姿であることと共通するものである

すなわちこの作品の底辺に流れる
古来からの日本人の本質のひとつである

もののあわれ

が、まさに時空を越えて
現代に生きる我々の心を捉えて
決して離そうとしないのである

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